2010/05/01
GWは9日間の休みを確保していたものの、実際に行き先を決めたのは出発の10日前だった。
当時はJALの経営再建の影響もあり、マイレージ特典航空券に空席が目立っていた。ただし大阪発の東南アジア路線はかなり減便され、JAL直行便はバンコクとデンパサールのみ。成田乗り継ぎを含め、メキシコやグランドキャニオン、インド、ヨルダンなども候補に挙げていたが、毎日空席をチェックしていると、5月1日大阪発ホーチミン行き、5月9日大阪着バンコク発の便に、それぞれ1席ずつ空きが出た。
結局、直行便の魅力には抗えず、この組み合わせで東南アジア周遊を組み立てることに決めた。
東南アジア域内はAirAsiaをはじめとするLCCが充実しており、国をまたぐ移動も比較的安価だ。その気軽さに背中を押され、少し欲張った旅程を組むことになる。
5月1日。JALとの共同運航便、ベトナム航空941便で、まずはホーチミンへ向かう。
GWの5連休初日ということもあり、関西空港はかなりの混雑。チェックインには20分ほどかかった。

ベトナム航空といえば、やはり客室乗務員のアオザイ姿が印象的だ。エンジ色の衣装は上品で、これから異国へ向かうという気分を自然と高めてくれる。
その点、JAL便だと現地に着くまで日本の延長線上にいるような感覚がある。帰路もJAL便だったのだが、機内に足を踏み入れた瞬間、現実に引き戻される感覚があった。その反面、安心感を得られるのも確かなのだが…。
機内食は和食か洋食で、ベトナム料理らしさはない。ベトナムビールがなかったのも少し残念だったが、日本で積み込む以上、仕方がないのだろう。
フライト時間は5時間20分。定刻どおり14時30分、ホーチミンのタンソンニャット国際空港に到着した。日本の円借款で建設された新しい空港だが、なぜか沖止めでバス移動。入国審査までの距離も長く、荷物の受け取りにも時間がかかり、空港を出られたのは到着から約1時間後だった。
空港で5,000円分を両替し、152番の路線バスで市内へ向かう。以前は国内線ターミナル発だったこのバスが、国際線ターミナルからも利用できるようになっていて便利になっていた。ただし、エアポートバスのような分かりやすさはなく、案内表示も乏しいため、慣れていない旅行者には少し難しい。
実際、東京と大阪からの到着便が重なっていたにもかかわらず、外国人利用者は私を含めて2人だけだった。市内中心部まで約30分、料金はわずか3,000ドン(約15円)。この安さを思えば、利用者が少ないのは不思議なくらいだ。

ベンタイン市場のバスターミナルで下車し、安宿が集まるフォングーラオ地区まで徒歩10分ほど。今回で4回目のホーチミンだが、街並みにはすっかり見覚えがあり、「帰ってきたな」という感覚さえあった。
宿は前回も利用したホテル・リエンハ。決して安宿ではないが、設備はしっかりしており、スタッフの対応も良い。なかでもレセプションの女性はとても愛想がよく、顔を合わせるたびに声をかけてくれる。
翌日、欧米人のおじさんに突然こう言われた。
「おまえ独身か? 独身なら彼女と結婚しろ。美人だし、おすすめだぞ」
「それは名案だな」
……本人はいなかったが。そもそも本当に独身なのだろうか。


シングルルームで、エアコン、ホットシャワー、テレビ付き。料金は20ドル。1泊だけなので値切らずそのまま決めた。シャワールームに少しにおいはあるが、許容範囲内だ。
このホテルにもWi-Fiはあるが、周辺には安宿が多く、電波には困らない。3分の1ほどはセキュリティもかかっていない。
Wi-FiがあればiPhoneが頼もしい。Skypeアプリで日本の固定電話にかけても1分3円以下、携帯電話でも20円ほど。こんな場所にいても、世界との距離が縮まった気がする。
……コンパクトデジカメの写真がないのが、少し寂しい。

2年前に知り合ったベトナム人のHさんと待ち合わせるため、ベンタイン市場へ向かった。相変わらずバイクの多い街だが、どことなく交通量が少ない。土曜日のせいだろうか。
これまで何度も市場の前は通っているが、中に入ったのは最初の1回だけ。観光客向け色の強さが、どうも肌に合わない。入口付近で待っているだけでも、サングラスや雑貨を売る客引きにひっきりなしに声をかけられる。ただ、この煩わしさもまた、東南アジアに来たという実感を連れてくる。
友人は、2年前のGWにメコンデルタのカントーを訪れた際、水上マーケットツアーに参加して出会ったHさん。英語ガイドの研修生として同行していた大学生だ。今はホーチミンに移り、日本料理店でアルバイトをしながら学校に通っていたが、最近その仕事は辞めたらしい。1週間前に連絡すると、学校が休みとのことで、会うことになった。

まずはベトナムコーヒーを飲もうと、彼女のバイクで移動する。入口は狭いが、門をくぐると現れる隠れ家のようなカフェ。日本でもなかなか出会えないほど、居心地の良い空間だった。
Hanhさんの日本語の上達ぶりには驚かされた。2年前は辞書と指差し会話帳が必須だったのに、今ではゆっくり話さなくても通じる。漢字もある程度理解しているという。
一方の私は、仕事が忙しいことを言い訳に、ベトナム語も英語もほとんど進歩していない。最近辞めた日本食レストランのオーナーの愚痴を日本語で聞かされ、ただ感心するばかりだった。
お腹が空いたので、バインセオを食べに行くことにし、再びバイクで移動する。空港に近いエリアまで戻ってきていることが分かるほど、街の感覚もつかめてきた。店先ではオープンキッチンでバインセオが焼かれ、待ち客や持ち帰り客で賑わっている。

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Phone 3Gで撮った写真しかなく、正直なところ画質は荒く、あまり美味しそうには見えないが、これがベトナム風お好み焼きのバインセオ。
海老や豚肉、もやしなどを米粉の生地で包んで焼き、香草とともにレタスでくるみ、ヌクマムベースのヌクチャムにつけて食べる。
「やはりベトナム料理はうまい!」
皮はパリッと、具はジューシー。レタスと甘酸っぱいタレのおかげで、いくらでも食べられそうだ。香草をたっぷり使う点も、この国の料理らしい。
ただし、このバインセオは南部の料理。以前カントーで食べたもののほうが、正直かなりおいしかった。その点は彼女も同意見だった。
Hanhさんはお酒を飲まないうえ、バイクの運転もあるため、私だけがビールを飲むことに。ついグビグビと進んでしまった。
バインセオとイカフライ、ビール3本、ココナッツジュースで約1,000円。現地価格としてはやや高めだが、その半分はビール代なので、十分安い。
気づけば22時を過ぎていた。遅くならないよう切り上げ、宿まで送ってもらう。フォングーラオは有名な安宿街だが、ベトナム人にはあまり知られていないらしく、彼女も道が分からない様子。私が案内して宿に着いたものの、今度は帰り道が分からず、近くの人に尋ねていた。
フォングーラオ通りには、音楽を大音量で流すバーが並び、独特の熱気に包まれている。欧米人は本当に夜が好きだなと思う。そんな喧騒を横目に、近くの店でビールを2本買い、部屋へ戻った。
旅先で食事がおいしいというのは、それだけで幸せだ。昨年の南米2カ月旅行では、心からそう思える食事はほとんどなかった。
明日の夜には、もうベトナムを離れる。
もっと食べておけばよかったな。
そんな小さな後悔を抱えながら、眠りについた。

