航路で瀬戸田から尾道へ
生口島の瀬戸田港から尾道へは、直行の航路を利用しました。この船便は1日6往復運航されており、今回は「広島ワイドパス」に含まれていたので非常に助かりましたが、通常料金は1,500円。日常的に利用するには、やはり少々高額に感じられます。
また、本数は少なかったものの、この区間にはバスの運行もありました。片道1,050円で所要時間は65~75分とのこと。船とバス、どちらを選ぶかは、時間を優先するか、費用を優先するかで判断が分かれそうですね。
瀬戸田港10:00→尾道港10:39 高速船/1,500円
尾道行きの船は、レモン色をした高速船「シトラス号」でした。週末にはサイクリング需要が増えるため、「サイクルシップ ラズリ」という、より多くの自転車を搭載できる船が運行されるようです。しかも、「サイクルシップ ラズリ」は2階から外を眺めることができるとのこと。これはぜひ、次の機会に週末に訪れて乗船してみたいですね。運行は「瀬戸内クルージング」という会社が行っています。


シトラス号の座席は客船内のみ。


佐木島の須ノ上港に立ち寄ります。乗客、降客はゼロでした。

因島のほぼ北端にある垂井東港からは、2名の方が乗船されました。港の付近には製鉄工場と「三和ドック」という会社の造船所が見えます。

船は尾道水道を東へ進んでいきます。尾道港の約1キロ手前にある尾道新浜(おのみちしんはま)でも下船が可能で、実際にお一人の方がここで船を降りました。

約39分、40分弱で尾道港へと到着しました。生口島の瀬戸田から直接尾道へ船で行けるのは、非常に便利ですね。
126年ぶりに新しくなった尾道駅

尾道駅付近の海岸線は、埋め立てられて公園や遊歩道が綺麗に整備されていますね。向かいの向島へ渡る船(渡船)も、かつては駅のすぐ目の前に乗り場があったのですが、現在は東に離れてしまい、少々不便になりました。最盛期には9航路もあった尾道水道の渡船は、尾道大橋の開通による利用客の減少で、現在3社にまで減っていましたが、さらに今年の3月にはもう1社が廃業して、2社になってしまいました。

尾道駅は、2019年に改修され、すっかり近代的な駅へと生まれ変わりました。駅前ロータリーを含む周辺道路は1999年には改修されていましたが、なんと1891年(明治24年)建築の旧駅舎が2017年まで使われていたというから126年間も使われていたとは驚きです。
私が小学生の頃、もう40年近く昔のことですが、尾道駅の改札を出ると海が見えて、駅前でバケツいっぱいの海産物を売る光景が鮮烈に脳裏に焼き付いています。あの時、シャコをバケツ杯500円か1,000円で買って帰った記憶は、今でもはっきりと覚えています。
駅が新しくなったこと以外にも、この風景に何か違和感があると感じていたのですが、それは山の上にあった尾道城がなくなっていたからでした。もともと実在した城ではなく、博物館として建てられたものでしたが、老朽化を理由に2020年に解体されたそうです。
いつものように、まずは眺めの良い千光寺公園(せんこうじこうえん)の山頂を目指したいと思います。しかし、すでにかなりの暑さです。5月なのに、こんなに暑かったでしょうか。

踏切を渡ると、ちょうど尾道駅に豪華寝台観光列車「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」が停車していました。この日は、1泊2日の下関→京都コースで、尾道に立ち寄っていたようです。最低でも一人38.5万円からというその料金にもかかわらず、毎回抽選販売になるほどの人気ぶりだとか。私には、まさに一生縁がないだろうな…とため息が出ます。 2025 年 3 月~6 月出発分[第 25 期]
坂道と猫が絵になる街・尾道

小学校の横の急な坂道を上っていきます。坂道の途中にある小学校というのはいかにも尾道らしくて良いな、と思っていたのですが、校舎に人の気配がありません。調べてみたところ、土堂小学校はつい2か月前の2025年3月31日をもって廃校になったようです。その理由は、校舎の耐震性や土砂災害の危険性だったとのことです。

パノラマ写真です。

急な坂道というより、階段です。もちろん車は通れません。ここで猫が登場です。

猫はかわええな…。なんともいえない、この距離感が好き。

ペロリンチョ。

昔の日本画に登場する猫って、こんな柄が多くんなかったですか?

坂道をいっきに登って来ただけに、眺めがよくなりました。

10年前に宿泊したことがある「尾道ビュウホテルセイザン 」。当時、宿泊費が手頃だった記憶があります。オーナーの奥様がタイご出身ということでタイ推し。レストランはタイ料理、玄関にはトゥクトゥクが停まっていました。ホテルの名前の通り、部屋から見える尾道の景色は本当に最高でしたね。
千光寺公園の新しい展望台「PEAK」
千光寺公園には、2020年まで存在した古い展望台が解体され、2022年3月に新しい展望台、千光寺公園頂上展望台「PEAK(ピーク)」が誕生しました。しかも、この展望台は無料で入場可能です。西側からは緩やかならせん状の階段を一周して登ることができ、東側にはエレベーターも設置されています。展望台自体は24時間入場できますが、エレベーターが稼働しているのはロープウェイの営業時間内のみとなります。
西側からは緩やかならせん状の階段を一周して登ることができ、東側にはエレベーターも設置されています。展望台自体は24時間入場できますが、エレベーターが稼働しているのはロープウェイの営業時間内のみとなります。

千光寺公園の標高は144メートル、さらにこの展望台自体も6~13メートルの高さがあるそうです。いや、本当に景色が最高ですね!特に感心したのは、海側の鉄柵が視認性を考慮した設計になっている点です。これなら、お子さんなど身長の高くない方でも、遮られることなく素晴らしい景色を存分に楽しむことができますね。この後、エレベーターで車いすの方も登ってこられました。そういう配慮もあるのか…。誰もが等しく景色を眺められるよう、細やかな配慮がされていることを深く感心させられました。

西方面。つい先ほど瀬戸田港から船で渡ってきたばかりの尾道水道が、この展望台からはまるで細長い川のように見えます。右手の建物は尾道美術館の建物です。先ほど横を通ってきましたが、改装工事中でした。

この展望台は、長さ63メートルもの広々とした空間です。あまりにも眺望が素晴らしいので、仮に有料になったとしても、個人的にはお金を払っても良いと思えるレベルですね。もちろん、その際は500円以内に抑えていただけると嬉しいですが(笑)。

東方面に目をやると、市街地の反対側にも小高い山があり、そこに展望台らしき建物が見えました。地図で確認したところ、「浄土寺山展望台」とのこと。また、尾道水道の奥の山並みは、瀬戸内の島々ではなく、本州から突き出す沼隈半島(ぬまくまはんとう)です。その南端には景勝地として名高い鞆の浦(とものうら)があります。
週末限定ですが、尾道から鞆の浦へ向かうクルーズ船も運航しており、手持ちの「広島ワイドパス」にも含まれています。1時間のクルーズで乗船料が通常3,000円ですから、もし週末に訪れる機会があれば、ぜひ乗船してみたいですね。使える特典はとことん使い倒したいという、「元を取りたい」という性分が顔を出してしまいます(笑)。

展望台の東側先端から撮影したパノラマです。ここからは、尾道水道(おのみちすいどう)の全景を一望することができます。右下に見える屋根は、千光寺山ロープウェイの山頂駅ですね。ロープウェイは片道3分、片道500円、往復700円。車で来た場合、この展望台までは坂道を歩いて登る必要がありますが、歩くのが苦手な方にはロープウェイの利用がお勧めです。

山陽本線の線路が通っていて、以前は車体が黄色一色でよく目立っていたのですが、現在の新型車両「URARA(うらら)」は車体がステンレスなので、背景の景色に溶け込んでしまっていますね。鉄道風景としては少し寂しい気もします。

この展望台は、デザイン性や演出性も素晴らしいですね。単なるアート作品にはあまり関心がありませんが、このような機能性に溢れた建築物には惹かれます。設計を手がけたのは、京都市京セラ美術館やルイ・ヴィトンの店舗など、国内外で数多くの建築物を手がける建築設計事務所「AS」だそうです。この展望台を訪れただけでも、本当に尾道に来て良かったと心から思えるほどでした。大満足です。
展望台から千光寺へは「文学のこみち」という坂道があるのですが、今のところ私には文学への興味が薄いため、別のルートを選びました。以前、鼓岩(つづみいわ)からの景色が良かった記憶があったので、今回はそちらを通る観音坂を経由して下山します。

観音坂の鼓岩を過ぎたあたりの曲がり道から見える景色は、これまた良かったですね。住民の方々にとっては、坂道の多い街での生活は大変なことだと思いますが、その一方で、あちこちからこのような美しい景色を望めるのは、本当に羨ましい限りです。

千光寺
尾道のシンボル的存在である千光寺(せんこうじ)。大同元年(806年)創建と伝わるこの歴史ある古刹は、尾道の市街地と瀬戸内海に点在する島々の美しい景色を一望できる千光寺山の中腹に建っています。私が訪れたのは平日でしたが、それでも国内外から多くの参拝者が足を運び、境内は活気に満ちていました。

千光寺の本堂は、鮮やかな朱色が印象的です。斜面から突き出した本堂はまるで展望台のようで、実際に本堂からは尾道の街並みと瀬戸内海の絶景を間近に望むことができます。

千光寺(せんこうじ)の上空を通過する千光寺山(せんこうじやま)ロープウェイ。このロープウェイからの眺めも、きっと素晴らしいでしょうね。ロープウェイの山頂駅は千光寺よりもさらに上に位置しています。

千光寺で催されている福を授かる「福鈴(ふうりん)まつり」。日中は汗ばむほどの陽気で、早くも音色が心地よく感じられます。

日なたは暑いけれど、日陰に入るとちょうどいい涼しさです。千光寺の境内から眺める尾道の景色は、展望台よりも少し下がっているため、街がより間近に感じられていいですね。ベンチで一休みできたので、「猫の細道」に立ち寄りながら街に降りていきます。

千光寺通りを進んでいくと、右手に広場が見えました。普段は猫がいると聞いていたのですが、残念ながらこの日は一匹も見当たりません。ちょうど幼稚園児たちが元気いっぱいに散歩に来ていたので、その賑やかな声に猫たちは姿を隠してしまったのかもしれませんね。

「猫の細道」の生みの親。
楽しみにしていた「猫の細道」。正直、「うさぎ島(大久野島)」にはそこまで興味が湧かなかったのですが、この「猫の細道」には訪れる前から期待で胸がいっぱいでした。

その名にふさわしく、階段状の坂道には期待通り数匹の猫たちがくつろいでいました。木々に覆われた薄暗く狭い道には、猫を描いた石のアートや、鯉のぼりが木々の間に吊るされており、まさにアート空間が広がっています。観光客が猫の写真を撮り終えるのを待っていると、一人の年配の男性が黙々と落ち葉を掃いています。「お掃除、大変ですね。ありがとうございます」と声をかけると、男性はにこやかに「ええ、2000坪ありますから、毎日ですよ」と答えました。
なんとその方はこの「猫の細道」一帯、約2000坪もの広大な土地を所有されている方だと判明。驚きです。2000坪という広さは、私の想像を遥かに超えるものでした。その後も絶えず観光客が行き交う中、猫の話から始まり、尾道の歴史、そしてご自身の活動について、尽きることのない興味深い話に引き込まれ、気づけば30分近くも話し込んでいました。
最後に、「『猫の細道と園山』で検索したら出てくるから、興味があったら見に来てね」と言われたので、別れた後にホームページを確認すると、その方は「園山春二(そのやま しゅんじ)」さんという芸術家で、この「猫の細道」だけでなく、岡山市の「招き猫美術館」なども経営されているという、まさに驚きの経歴の持ち主でした。
残念ながら、会話に夢中になるあまり猫たちの写真は撮り損ねてしまいましたが、それ以上に心に残る、尾道の「人」との貴重な出会いとなりました。

これもアートの一部かと思ったら、まさかの実売されている本でした。
NyAERA (ニャエラ) 2022 (AERA増刊)

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尾道ラーメン「しょうゆや」
今回は基本的にノープランの旅でしたが、ちょうど昼食時を少し過ぎた13時前という時間帯。お店も空いているだろうと考えました。きっと人気の店も入りやすいだろうと、Googleマップで「尾道ラーメン」と検索。近くに評価の高いラーメン店が見つかったので、行ってみることに。お店の名前は「しょうゆや」。運よく待ち客がいなかったので、そのまま食事をすることにしました。
店内はカウンターのみで12席のこじんまりとした造り。私が座ったところで、ちょうど満席になりました。事前に券売機で注文するのですが、隣に座った方が「平日麺大盛り無料」の食券を持っていたのを見て、「しまった!」と内心思いました。しかし、ダメ元で店員さんに直接お願いしてみると、快く応じていただけたのです。券売機にはあんなに大きく「平日麺大盛り無料」と書いてあったのに、見落としていたとは…

平打ち麺は私にとって絶妙な硬さで、一口ごとに心地よい歯ごたえを感じられます。スープは、見た目の濃さとは裏腹に意外な甘みがあり、その甘さをネギの爽やかな苦みが引き締め、さらにスープに溶けきらない大きめの背脂が、口に含んだ時にぷちっと弾けるようなアクセントとなっていました。尾道ラーメンは一般的に魚介系の出汁が特徴とされていますが、私にはその風味はあまり強く感じられませんでした。そして、薄切りにもかかわらず肉の旨みがぎゅっと詰まったチャーシューは、非常に美味しかったです。
麺大盛り無料というサービスに加えてライスも頼んだので、お腹いっぱいで大満足でした。本当に久しぶりの外食だったので、一層美味しく感じられましたね。旅先での外食が「久しぶり」というのも、おかしな話ですが(笑)

早くも、次の目的地へ。
ラーメンの提供が早く、食べ終えてお店を出たのは13時12分。次の広島方面への列車の時刻を調べると、13時31分でした。もう少し尾道の商店街や海沿いを散策したい気持ちもありましたが、展望台で十分な満足感を得ていたことと、少し歩き疲れていたこともあり、移動と休憩を兼ねて広島方面へ戻りながら、宮島へ行ってみることにしました。本当に、私はゆっくりする気がない性分だとつくづく感じます。

商店街の合間から見える千光寺(せんこうじ)と、それに続く千光寺新道(せんこうじしんどう)。尾道は、どこを切り取っても絵になる風景ばかりですね。

思ったよりも尾道駅まで距離があったことに気が付かず、最初は商店街をのんびりと歩いていました。途中で地図を調べると、商店街が思ったよりも長かった。本町通商店街の長さは1.2kmあります。

尾道本町通り商店街の西側、尾道駅方面からの入口には、文学の街・尾道を象徴する存在として、作家・林芙美子(はやし ふみこ)の像が静かにたたずんでいます。尾道を舞台にした名作『放浪記』などで知られる彼女は、この地で少女時代を過ごし、その経験が後の作品に大きな影響を与えたと言われています。私自身、文学の知識は皆無に等しいのですが、尾道と言えば林芙美子という名前だけは印象に残っていました。

出発の5分前に尾道駅に到着しました。新しくなった駅舎には魅力的な施設も併設されているようですが、今回は時間の都合で素通りです。次回の楽しみにとっておきたいと思います。