
早朝、静かにライトアップされていた高山駅。その光が足元の水たまりに映り込んでいます。この水たまりは人工的なものですが、うっかり足を踏みいれやすそうなので注意が必要ですね。高山駅の自由通路を通り、駅西側の駐車場へ向かいます。キーンと冷えた空気が、標高の高さを改めて感じさせます。

飛騨高山は盆地に位置し、周囲を山々に囲まれているため、秋から冬にかけての晴れた日の早朝には、特に濃い朝もやが発生しやすい地域です。飛騨高山市街地を離れ、平湯温泉へと車を走らせると、あたりは一面の朝もやに包まれていました。

平湯バスターミナルでトイレを済ませておきます。登山口から山頂まではトイレがないため、事前の準備は重要です。バスターミナル周辺は紅葉が始まったばかりのようです。

安房トンネルの通行料がもったいないので、今回は安房峠を走ります。何度か経験済みですが、険しいイメージとは異なり、運転しやすい道です。車の通りも少なく、路面も比較的良好。何より、この時期は素晴らしい紅葉の中をドライブできるのが魅力です。
3年ぶりの登山。いざ焼岳へ。

中ノ湯から焼岳へのコースは、比較的整備されており、標準的な歩行時間は往復で4~5時間程度です。標高差は約600mで、初心者にも挑戦しやすいルートとして知られています。
ですが、今回は久しぶりの登山です。以前であれば余裕を持って臨めたのですが、最後に本格的な登山をしたのは、コロナ禍前の立山周回トレッキング以来でしょうか。かなり間が空いてしまったので、無理せず自分のペースで登りたいと思います。

焼岳の登り始めは、ブナやミズナラなどの広葉樹林に囲まれた静かな道が続きます。まだ青空は見えませんが、木漏れ日の下で見る紅葉は、鮮やかさの中に深みがあり、心が安らぎます。久しぶりの登山で、改めて自然の美しさに心惹かれます。

なんでこんな登山道に車が捨てられているの?

2022年の秋の紅葉は、どうやら黄色が主役のようですね。鮮やかなオレンジや赤に染まる木々はまだ少ないように見受けられます。もしかしたら、夏の気候の影響で、葉の色付き方に変化があったのかもしれません。

木の幹に絡みつく紅葉は、まるで一枚の絵画のようです。濃い色の幹を背景に、鮮やかな赤から黄色、オレンジへと移り変わる紅葉のグラデーションが際立ち、その色彩の豊かさに深く惹き込まれます。
陽が射し始め、周囲の熊笹が鮮やかな緑色に輝き出しました。これだけ緑が生い茂っていると、熊が出てきてもおかしくありません。必定以上に意識して熊鈴を鳴らして歩いていました。
ちょうど樹林帯が終わって、空が大きく開けました。ここからはしばらく、歩きやすい平坦な道が続くようです。

ここは広場といわれ、焼岳の紅葉の写真でよく目にする場所です。ちょうど樹林帯が終わって、空が大きく開けて見晴らしがよくなります。ちょうど中間地点あたりです。残念ながら、鮮やかなナナカマドの赤い紅葉はすでに散ってしまっていました。

とはいえ例年であればとっくに散っている時期ですが、今年は9月の気温が高かった影響で、紅葉全体が遅れているようです。

紅葉も去ることながら今日の空の青さが実に見事です。久しぶりに一眼レフを持ち出して撮影しています。紅葉の照り返しを抑えるためにPLフィルターを使用しているのですが、その効果で空の青色が強調されすぎてしまい、PLフィルターの効果のバランスを取るのは難しいですね(技術のない言い訳)。



奥には壮大な穂高連峰が姿を現しました。左に見えるのは、日本で三番目に高い奥穂高岳(標高3,190m)、中央には前穂高岳(標高3,090m)がそびえています。両峰の間を結ぶ稜線が、扇形に広がる吊尾根です。切り立った稜線が続く、険しいミネ(峰々)の連なりが印象的です。

岳東側の斜面には草紅葉が広がっていました。見頃はすでに過ぎているものの、赤や黄金色に染まった草原が山肌に広がり、まるで自然が織りなした絨毯のよう。陽の光を受けて揺れるその様子は、晩秋の山ならではの風情を感じさせます。

登るにつれて、景色はしだいに変化していきます。
樹林帯を抜けると、足元はごつごつとした岩だらけの世界。
ついに焼岳北峰の溶岩ドームが視界に入ってきましたが、足は思うように動かず、距離が一向に縮まりません。
この感じ――息が上がり、脚が鉛のように重たくなる感覚。そういえば、こんなにバテたのは久しぶりです。

焼岳には、北峰(標高2,444m)と南峰(標高2,455m)の二つのピークがありますが、現在、南峰への登山は禁止されています。南峰は崩落の危険が高く、さらに活発な噴気活動も続いているため、火口周辺への立ち入りは極めて危険です。
また、南峰山頂直下には「火口湖」と呼ばれるエメラルドグリーンの湖が広がっていますが、湖水は強酸性かつ高温のため、近づくことはできません。なお、焼岳は常時観測火山に指定されており、噴火警戒レベルによっては、北峰を含む広範囲で立ち入り規制が行われることもあります。

焼岳北峰は現在も登頂が可能ですが、山頂部が溶岩ドームになっていて、岩の隙間からはシューっという音とともに水蒸気が立ちのぼり、周囲にはほんのりと硫黄の匂いが漂っています。
山頂へのルートはこの溶岩ドームを右側から巻いていきますが、噴気孔のそばを通ることになるため、自然の力強さを肌で感じる一方で、少し緊張感も覚えます。

岩陰を回り込むと、眼下に上高地の景色が広がりました。
正面には、雄大な穂高連峰がそびえ立ち、雲ひとつない青空にその姿がくっきりと映えています。

登山道の脇に目をやると、岩場が一部、鮮やかな黄色に染まっていました。
これは、水蒸気とともに噴き出す火山ガスに含まれる硫黄成分が冷え固まり、「硫黄華(いおうか)」となったものです。これを岩場を登れば山頂のはずです…。
さっきまでのごつごつとした岩場からは想像できない、穏やかな雰囲気の山頂広場にたどり着きました。ここは焼岳北峰の山頂(標高2,444m)。ようやく登頂です。それにしても、ここまでバテたのは久しぶりでした。
久しぶりの登山で初めての登った山だったので、写真を撮ってもらいました。
撮影してくれた人から「このスマホ、けっこう広く写るんですね」と言われました。
あまり気にしていませんでしたが、調べてみたところ、Galaxy S21の標準広角カメラは焦点距離約26mm(35mm換算)で、一般的なスマホ(28〜30mm換算)よりもやや広角寄りだそうです。
写真を撮ってくれたのは大学生くらいの若い方でしたが、そんなわずかな違いに気づいたことに感心しました。

焼岳北峰の山頂広場からは、上高地一帯と穂高連峰の雄大な景色を一望することができます。
梓川が蛇行する様子や、緑に包まれた河童橋周辺までも見渡せ、まるで精巧な箱庭を見下ろしているかのような光景です。まさに、最高の展望広場と呼ぶにふさわしい場所です。

足元には、緑と黄色が織りなす美しい絨毯のような紅葉が広がっています。河童橋付近の白樺の紅葉も、そろそろ見頃を迎えていそうです。

昨晩、スーパーでお得に手に入れた半額弁当が、今日の私のランチです。この素晴らしい景色を眺めながら食べるので、普段以上に美味しく感じられます。

この素晴らしい景色はいつまでも見ていたい気持ちになりますが、そろそろ下山することにしましょう。今日はこの後、富山市内まで移動します。

登山口の中ノ湯へ再び来た道を下ります。足元に広がる草紅葉の鮮やかさは、まるで錦織の絨毯を敷き詰めたようです。
登りは、曇り空の下、紅葉がしっとりとした質感で落ち着いた美しさを見せていました。陽が差してきた下山時には、その紅葉は陽光を浴びて鮮やかに輝き出し、生命力に満ちた華やかな景色へと変わりました。

鮮やかな赤と黄色のコントラストが織りなす紅葉の美しさ。まるで燃え上がる炎のような色彩が、抜けるような青空に映えています。葉のグラデーションも豊かで、一枚一枚が異なる表情を見せ、その生命力を感じさせます。スマホのカメラも進化しましたが、やはり、このような繊細な描写ができるのは一眼レフならでは。その場の空気感まで伝わってくるようです。

無事下山できて、まずは安心しました。しかし、今回の山行は、これまでの経験とは異なり、通常のコースタイムを大幅に超過してしまいました。振り返ると、登りの段階から足取りが重く、息切れもしやすかったように感じます。体力の低下を、これほどまでに痛感したのは初めてです。
焼岳登山口の中ノ湯を出発し、車で富山市内へ向かう途中、当初は平湯温泉に立ち寄るつもりでした。しかし、窓を全開にして走ると、心地よい風が想像以上に気持ちよく、結局そのまま富山市内まで来てしまいました。
今夜宿泊するのは、「ホテル・アルファーワン富山荒町」です。駐車料金が無料という点に惹かれて、こちらのホテルを選びました。ホテルの敷地内が満車の場合でも、向かいにある荒町グリーンパークの駐車場を無料で利用でき、しかも24時間入出庫可能という利便性の高さも魅力です。さらに、無料の朝食、大浴場の完備、そして無料の全自動洗濯機の利用が可能とまさに至れり尽くせりです。
お部屋はというと、昭和の時代を感じさせるシングルルーム。テレビのチャンネルを回していると、二つのチャンネルでアダルト番組が放送されていました。時代を感じさせる一幕でした。

アルファーワン富山荒町の最上階にある展望大浴場。早めに到着したことで、贅沢にも貸し切り状態で利用できました。立山周辺はマンションに遮られて見えなかったものの、剱岳や薬師岳の山並みを眺望できるのも魅力のひとつです。
山を歩き疲れた体を開放してくれる、登山後のお風呂。その温かさがじんわりと全身に広がり、筋肉の緊張がほぐれていく感覚は、登山の醍醐味といってもいいでしょう。何者にも代えがたい喜びです。

まずは登山の汗を洗い流し、リフレッシュ。その後、急いで富山市役所の展望台へ向かい、立山連峰にかかる夕焼けの絶景を堪能したいと思います。どうか、間に合いますように。

地上70mにある富山市役所の「市役所展望台」に駆け上がると、まさにアーベンロートの絶景が広がっていました!登りのエレベーターが少し分かりにくく、到着はぎりぎりでしたが、間に合って本当に良かったです。立山や剱岳をはじめとする山々の峰々が、夕陽を受けて燃えるような赤色に染まっています。アーベンロートとは、ドイツ語で「夕焼けの赤」を意味する、大気光学現象の一つです。


富山城址のある西方面。そして、あの山々の裏手あたりが金沢市でしょうか。幸運なことに雲一つない快晴ですが、夕焼けに関しては、ダイナミックな色彩の変化は望めそうにありません。

富山駅周辺は、近年目覚ましい発展を遂げましたね。2015年に北陸新幹線が開業して移行、しばらくは落ち着いた地方都市の印象でしたが、2022年に商業施設「MAROOT(マルート)」や「ホテルヴィスキオ富山」が新たな開業したことによりいっきに洗練された感じがします。また、富山ライトレールが駅構内を通り抜け、南北直通運転を2020年に開始したことで、富山港線や富山都心線への乗り換えがなくなり便利になっています。
地域クーポンをもらっていたので、駅ビルの中や周辺の飲食店などで使えるお店がないか少し見て回ったのですが、今夜の気分に合うような夕食が見当たりませんでした。
さすが富山。スーパーの刺身で大満足。

ホテルから歩いてすぐの場所に、グーグルマップで見つけた「大阪屋ショップ」北新町店へ。富山を中心としたスーパーとのことなので、きっと新鮮な魚介類が豊富に揃っているはず。地域共通クーポンも使えるようです。


まさに期待通り!色つやの良い、見るからに美味しそうな刺身を発見しました。「富山湾」と書かれたこの刺身は、まさにその期待に応えてくれそうです。午後4時以降の調理というのも嬉しいですね。今晩は、ホテルの部屋で富山の海の幸をじっくりと味わうことにします。
良い時間帯に訪れたおかげで、刺身以外の品はすべて半額で購入できました。明日の登山に備えておにぎりも確保。不思議と登山後はビールではなく、炭酸飲料が飲みたくなるんですよね。ということで、コーラを2リットル分も購入しました。

580円でこのボリュームは本当に驚きです! ぶりの幼魚である「ふくらぎ」は、鮮度の良さが際立つ引き締まった身で、さっぱりとしていていくらでも食べられそうでした。鮮度が重要な「かます」の刺身は、上品でありながらも奥深い独特の旨味があり、しかも一匹分の量とは贅沢です。ねっとりとした「イカ」の甘みも格別でした。そして、富山名物の昆布締めされた「かじき」は、昆布の旨みがしっかりと染み込んでいて、まさに旨みの凝縮。これらの味わい深い刺身は、まさに富山湾の恵みを実感させてくれるもので、大満足でした。以前、石川県の居酒屋のマスターが、富山県は魚へのこだわりが特に強いと仰っていましたが、今日いただいたスーパーマーケットの刺身の盛り合わせを味わって、その言葉の意味がよく理解できました。