vol.3 流氷ウォーク|2008 北海道

流氷の雪原の上を歩く流氷ウォーク。
目次

この日宿泊するのは、知床グランドホテル北こぶし。ロビーでそのまま流氷ウォークのツアーと合流する流れになっている。

館内に足を踏み入れると、想像以上に豪華な雰囲気で、前日まで泊まっていた宿と比べても明らかにワンランク、いやそれ以上にグレードが高い。宿泊と流氷ウォークがセットで13,800円。流氷ウォーク単体でも5,000円することを考えると、ホテル代は実質8,800円ほどになる。3連休中としてはかなり良心的な価格だろう。

送迎用の車に乗り込み、流氷の接岸地点へ向かう。今回のツアーメンバーは6人。
早朝に港で見かけた、人であふれる流氷ウォークの光景を思い出すと、もっと大人数になるのかと覚悟していた。少人数と知り、正直ほっとする。

ドライスーツに身を包み、海へ

場所は朝と同じポイントだった。目の前には、一面を覆う白い流氷原。やはり胸が高鳴る。

道路脇の駐車スペースで、流氷ウォーク専用のドライスーツに着替える。ダイビング用を改良したもので、水は一切しみ込まないという。ブーツは一体型で、はだしのまま足からすっぽりと履き込む。

頭でっかち。短足だ…

最大の難関は首元だった。水を完全に遮断するため、ゴム製の狭い開口部に頭を通さなければならない。私は人より少し頭が大きい。多少手こずったが、なんとか突破。大きな手袋をはめ、準備完了となる。

全体的にぶかぶかで、まるで宇宙服のような着心地。不思議と楽しくなってくる。

すでに現地では多くの人が楽しんでいた。この日は「子供流氷サミット」というイベントが開催されており、子どもの姿が目立つ。テレビの取材クルーも来ていて、翌日のニュースでも流れていたらしい。

流氷の中で浮かぶ

すき間が怖い。

見渡す限り、白一色の世界。
どこからが陸で、どこからが海なのか判然としない。岸近くには薄い氷も混じり、正直わずかな怖さもある。万一落ちても浮くと分かっていても、足元の下は深い海なのだと思うと緊張する。

ドライスーツの素材はかなり厚く、寒さはほとんど感じない。むしろ太陽が照りつけ、少し暑いほどだった。

しばらく歩いたところで、ガイドが氷の割れ目を広げる。

「ここから入れますよ」

恐る恐る身体を湯に沈めてみる。
その瞬間、予想に反して、思わず声が漏れるほど気持ちいい

まるでラッコになったかのように、体が自然と浮き、ぷかぷかと揺れる。
重力から解放されたような、不思議な浮遊感だ。

やがてゆっくりと立ち上がると、今度は水圧が足元をきゅっと締めつける。それはまるで、やわらかなマッサージを受けているような感覚。

本当は、もっと広い範囲で海が開けていてくれたらよかったのですが、この日は流氷がぎっしりと接岸しており、入れる場所はごく限られていました。

氷に囲まれた小さな水たまりに身を沈めているような感覚です。そのため、体感としてはまるで五右衛門風呂に浸かっているかのよう。

水中ハウジングに入れたカメラも持参していたので、試しに海の中を撮影してみました。

けれども、流氷の下の海は想像以上に暗く、何も写っていません。

海の妖精「クリオネ」を、この目で見ることはできませんでした。

※※後日テレビで見た、約2週間後のウトロでの流氷ウォークでは、
流氷はかなり減り、海にそのまま浸かれる状態になっていました。
バケツで海水をすくうと、そこにはクリオネの姿がありました。

そう考えると、このあたりの海には、
実は相当数のクリオネが漂っているのかもしれません。

歩いているのは、海の上?流氷の上?

歩いているのは海の上。
足元の氷の下には、深い海が広がっているはずです。
そう思うと、本当に不思議な感覚になります。

途中、途切れている部分もあるのでしょうが、
この流氷は延々と続き、
ロシアまでつながっていると言われています。

いったい、どれほどの広さがあるのでしょうか。
見渡す限り、流氷は果てしなく広がっています。

雲ひとつない青空。まるで、宇宙空間。

青と白だけの世界を、
たださまよっている。

異国の地、というよりも、
地球ではない別の星に来てしまったような感覚です。

宇宙服のようにぶかぶかのドライスーツを着ているせいもあるのでしょう。
けれど、それを差し引いても、
本当にそんな錯覚を覚えてしまう場所でした。

流氷は、ただ白いだけではありません。
ところどころ、青く光っているように見える氷があります。

近づいてよく見ると、
それは本当に、氷そのものが淡く発光しているよう。
思わず足を止めて見入ってしまうほど、神秘的な青さです。

あとで知ったことですが、
これは流氷の中に含まれる気泡と、
太陽の光の屈折によって青く見えるのだそうです。
理屈としては理解できても、
目の前の光景は、説明以上のものがありました。

これほど流氷がぎっしりと接岸するのは、
近年では珍しいことだそうです。
スノーシューのガイドさんに
「流氷も見られて、天気まで良くて本当にラッキーですね」と話したとき、
こんなことを教えてくれました。

「オホーツク海が流氷に覆われると、天気は比較的安定しやすくなります。」

流氷が海面をふさぐことで、水蒸気の発生が抑えられます。
すると上空で雲が発達しにくくなり、その結果、青空が広がりやすくなる――そんな自然の仕組みがあるそうです。

流氷を見ることができて、
しかも天気が良かった。
それは単なる幸運や偶然ではなく、
自然の中で連なって起きた結果なのだと思うと、
あらためて、その偉大さを実感しました。

岸に近い場所では、ところどころ流氷が薄く、不安を感じる場面もありました。
ですが、沖へ進むにつれて氷はしっかりと厚みを増し、
そこからは自由に歩き回ることができました。

流氷の上に寝そべったり、
流氷が折り重なった小さな山に登ったり、
氷の塊を滑り台のようにして滑ってみたり。
ここでしかできない遊びを、思う存分楽しみます。

氷の上にいたのは、体感では1時間ほどでしょうか。
気づけば、あっという間に時間が過ぎていました。

周囲を見渡すと、
ほかの流氷ウォークの参加者たちは、
すでにだいぶ前に引き上げていたようです。
沖へ進んでも、ほかの人の姿は見当たりません。
どうやら、私たちのツアーはかなり時間をかけて、
沖のほうまで案内してもらえたようでした。

これもすべて、ガイドさんのおかげ。
感謝しかありません。

遠くに知床連山を眺めながら、
「もう終わりか」と名残惜しさを感じつつ、
流氷を踏みしめて岸へ戻ります。

最後にもう一度、海の中へ入り、
岸に上がってドライスーツを脱いで、流氷ウォークは終了。

ドライスーツを脱いだときの解放感と、
流氷ウォークの満足感は、言葉では言い表せないほどでした。

天日干しが最強説。

果たして、こんなに充実した一日でよいのだろうか。

朝からかなり動き回っているので、そろそろ疲れが出てきてもおかしくない頃だが、天気の良い知床のパワーをもらっているせいか、まだまだ元気。

冬の野生動物観察ツアー

再びホテルのロビーで待っていると、ガイドさんが迎えに来た。

ハイエースに乗り込み、まずは自己紹介。
ガイド歴は一年半とのこと。

「今回の知床スポットガイドツアーは、特にコースは決まっていません。みなさまのご希望にあわせて回ります」

……ん?
冬の野生動物観察ツアーに参加したはずなのだが。

こういうことに妙に勘が働く自分は、ここで二つのツアーが合体していることに気がついた。
正直、少し腑に落ちない気持ちはある。
けれど、結果的に“いいとこ取り”ができるのなら、それも悪くない。
そう自分に言い聞かせることにした。

 

車はプユニ岬で停まった。

車から降りると、ひんやりとして気持ちのいい空気。
そして目の前には、オホーツク海の絶景が広がっていた。

正直、さっきまでは少しだけむっとしていた。
けれど、この景色を前にすると、そんな気持ちは一瞬で吹き飛んでしまう。

プユニ岬手前の橋梁部分の見晴橋。

オホーツク海に広がる流氷ももちろん美しい。
だが、それ以上に目を奪われたのは、背後にそびえる知床の山々だった。

西から傾きはじめた太陽の光を受けて、
雪をまとった山肌がやわらかく輝いている。
同じ白なのに、流氷の白とも、空の白とも違う。
その雪山の白さが、格別に美しかった。

プユニ岬からみた今日宿泊する知床グランドホテル北こぶし。

そしてこのひんやりとして、透き通った空気が、
流氷ウォークでドライスーツの中にこもった熱を、
ゆっくりと冷ましてくれる。
ほてった体が落ち着いていくのがわかり、とても気持ちがよかった。

次の目的地は、知床自然センターからさらに海岸線を進んだ先にあった。
車を降りると、目の前には雄大な知床連山が立ちはだかる。

空には雲ひとつない。
遮るもののない視界に、山の稜線がくっきりと浮かび上がっている。
標高は1,500メートルほどしかないと聞くが、
とてもそうは思えないほどの存在感だ。

森の中には、普通にエゾシカが歩いている。
日本のこんな場所に、まだこれほど自然が残っていたのか――。

再び、車を走らせる。

車は道端に停まり、ガイドが遠くの海岸線を指さす。
「あれが知床岬です。陸から見えるのはここからだけです」

その言葉に、みんな思わず車から降り、写真を撮り始めた。
「ここからしか見えない」という情報がなければ、ただの岬として通り過ぎてしまっただろう。
どうやら日本人は、こうした“プレミアもの”に弱いらしい。

眼下に広がる川は岩尾別川。秋には鮭が孵化のために上ってくることで知られ、川沿いには鮭の孵化場もある。
この付近にはヒグマも頻繁に出没するが、今自分たちがいる道路は高台にあるため、安全に観察できるスポットとして有名だ。
対岸の斜面には、冬眠中のヒグマが3匹ほどいるとのこと。

それにしても、日がだいぶ傾いてきたようで、日陰に入ると体感温度がぐっと下がるのがわかる。
のんびり景色を楽しむ余裕よりも、あまりの冷え込みに、早く暖かい車に戻りたい気持ちが勝ってきた。

岩尾別川から知床連山を眺めたあと、再びウトロまで戻ってきた。
ガイドさんはキョロキョロと山のほうを見ながら運転している。

突然、車が停まる。
「あそこにいますね。あれはオジロワシです。」
 

オジロワシ。


基本的には高い木の上に停まっているため、肉眼ではなかなか確認できない。
車内で配られた双眼鏡がようやく役に立つ。
さらに、大きく見たい人のために、ガイドさんが望遠鏡並みの大きな双眼鏡も設置してくれた。

オジロワシはキリッとしていて、凛々しい。
自分の持っているレンズの最大望遠は320mmだが、それでも足りない。
顔の表情まで確認するのは無理だし、外も暗くなりつつあるので手ぶれも心配になる。
 

何色?

海のほうを見ると、斜陽が流氷を照らしている。
言葉では表現しきれない青色――いや、藍色と呼ぶのが近いかもしれない。
時間とともに、流氷の色は刻々と変化していく。

再び車に乗り込み、移動を続ける。
外の気温はどんどん下がり、車の窓はすぐに曇ってしまう。

思ったより次の動物は見つからない。
ようやくオシンコシンの滝を越えて、約20分ほど走ったところで、車は停まった。

オオワシ。

「あれはオオワシです。」

さっきよりもかなり高い木の上に止まっているが、体の黒と白のコントラストがはっきりしているため、姿かたちがよく分かる。

この写真は、ガイドさんが設置してくれた望遠鏡を使い、コンパクトデジカメで撮影したものです。
ガイドさんに教えてもらった技ですが、実際にはかなり難しく、奇跡的に撮れた一枚といえるでしょう。

夕陽の様子を眺めていると、どうやらこの場所でサンセットを見ることになりそうです。
本当は「サンセットポイント」と呼ばれるプユニ岬から見たかったのですが、最後までオオワシを探してくれたので、仕方ありませんね。

参加者の多くも、いつの間にかオオワシより夕陽の美しさに目を奪われています。
空気が澄んでいるため、夕陽の色合いは格別で、息をのむほどの美しさです。

ガイドさんがポットにいれたホットコーヒーをステンレスカップにいれてサービスしてくれました。おそらく気温は氷点下近いでしょう。嬉しいサービスです。
 

刻一刻と太陽が、空と陸との境界線へ向かっていきます。
海に沈んでいるようにも見えますが、その先には陸地があります。
あまり高い山がないため、まるで海に沈むかのようです。
いや、海に沈むというより、流氷の上に沈む──そんな表現のほうが、なんだかロマンチックです。

16時26分。
太陽は沈み、静寂の時間が訪れました。
長い一日が終わります。

朝から青い空と、白い雪原、流氷の上、そしてそれらに反射した太陽の光を、一日中浴び続けていました。
暗く落ち着いた空間が、なんともほっとさせてくれます。

北こぶし

チェックインしたのは17時15分すぎ。外はすっかり暗くなっていましたが、窓から眺めたオホーツク海は地平線あたりにはまだわずかに明るさが残っていて、少しだけ夕暮れの余韻を感じられました。
部屋は別館の和ベッドタイプ。ひとまずお風呂に入って、体を温めます。

今日の夕食はバイキング。
会場は広く、多くの人で賑わっていました。

結局、皿の上は刺身と寿司が中心に。

刺身コーナーは想像以上に充実していて、まぐろ、サーモン、炙りサーモン、甘えび、つぶ貝、ほたて、そしてもちろん、いくらも並んでいます。握り寿司もあり、肉料理はライブキッチンで焼き上げてくれるスタイル。ほかにも焼売や揚げ物など、目移りするほどの品数でした。

最強の親子丼です。

最後はいくらとサーモンをたっぷりのせたいくら・サーモン丼で締めくくり、食後にアイスまでしっかりいただきました。

気づけば、食事に没頭すること約1時間半。
さすがに満腹です。

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