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vol.9 周辺のアンコール遺跡群【2010 東南アジア】

アンコールワット3日目。今日の夜、シェムリアップを出発して、バンコク経由で帰国する予定。それまでの時間を使い、引き続きアンコール遺跡をめぐる。昨日の後半は少し疲れもあったが、今日も早朝から活動する。

目次

日の出を見るため、宿を4時50分に出発する。

スラ・スラン(Srah Srang)

スラ・スランは東西700m、南北350mの人口湖で、10世紀末から12世紀初頭にかけて造られた。「王の沐浴池」とも呼ばれ、かつては王族の沐浴や儀式に使われていた場所だ。

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昨日に続き、茜色に染まる朝焼けが空を覆っていた。赤とオレンジが混ざった柔らかな光が水面に映り、池の西側に残る砂岩のテラスからは、その静かな美しさをじっくりと感じることができた。

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観光客は少なく、アンコールワットほどの知名度はないため、訪れている人は10名前後ほど。

周囲は緑豊かな木々に囲まれ、水面は鏡のように空や景色を映していた。日の出の時間帯には、静かな池に広がる光景が印象的で、かつて王族たちがこの場所で朝の光を眺めた気持ちに、ほんの少し触れるような気がした。ここだけは、時を経ても変わらない風景なのだろう。

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太陽が上がった後は雲に隠れてしまい、空は染まりませんでした。

バンテアイ・クデイ

バンテアイ・クデイは、もともと9世紀にヒンドゥー教の僧院として建立され、12世紀末にジャヤヴァルマン7世によって仏教寺院として再建された遺跡だ。「バンテアイ」は砦、「クデイ」は僧房を意味し、その名は「僧房の砦」と訳される。

スラ・スランのすぐ隣に位置しているが、トゥクトゥクは遺跡の西側、やや離れた入口まで走り、そこで降ろされた。正面となるのは東側だが、朝日を避けて日陰側で休ませたかったのかもしれない。そのため、ナーガのテラスや東楼門の破風といった見どころは、今回は目にすることができなかった。

入口から遺跡までは少し距離があり、森の中の細い小道を数分歩く。木々に囲まれた静かな道を進むにつれ、外の世界から切り離されていくような感覚があった。

今回訪れたアンコール遺跡群の中でも、早朝の澄んだ空気と静けさが重なり、バンテアイ・クデイはとりわけ印象に残る場所となった。

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日の出直後、早朝のバンテアイ・クデイは訪れる人もなく、静寂に包まれていた。あまり知られた遺跡ではないため、こうした時間帯の雰囲気は少し張り詰めたものがある。一昔前なら、ここで何か起こらないかと考えた人もいたのかもしれない。

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東楼門内部にある仏像。

遺跡の内部に入ると、ひんやりとした空気が身を包む。いくつかの仏像が安置されているが、それ以外に見るべきものはほとんどない。この寺院の魅力は、むしろ外にある。

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特に注目すべきは、祠堂の外壁に刻まれたデヴァター像だ。微笑む顔や優雅な立ち姿は、12世紀末にジャヤヴァルマン7世によって再建された当時の仏教寺院の趣を伝える。外壁をゆっくりと歩きながら眺めると、一体一体の表情や装飾の細かさに目を奪われる。

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静かな森の中の遺跡に描かれた緻密な彫刻で彩られた美しいデヴァター像。このシチュエーションはジャングルに埋もれていたアンコール遺跡のイメージとピッタリです。

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静かな森の中に佇む遺跡。その外壁には、緻密な彫刻で彩られた美しいデヴァター像が並ぶ。柔らかい光の中で浮かび上がるその姿は、かつてジャングルに埋もれていたアンコール遺跡のイメージそのままだ。周囲の木々のざわめきと静寂のコントラストが、彫像の優雅さを一層引き立てている。

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祠堂の北側は太陽が当たらず、壁やデヴァター像は湿気を帯び、苔が生えている部分もある。その佇まいは、遺跡に静かな深みを与えているように感じられる。

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石の彫刻とは思えないほど緩やかな曲線で彫られたデヴァター像。その穏やかな顔の表情には、時を超えても変わらぬ優雅さが感じられる。

踊り子のテラス

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奥にあるのが踊り子のテラス。

東楼門と祠堂の間に位置するこのテラスの柱には、アプサラの姿が刻まれている。アプサラとはヒンドゥー教の神話に登場する天女や精霊のことで、美しさと優雅さの象徴として寺院の外壁に描かれてきた。柱の彫刻を一つ一つ眺めると、それぞれのポーズや表情に違いがあり、当時の職人たちの繊細な技と寺院に込められた信仰の意図が伝わってくる。

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神話によれば、アプサラは主にインドラ神の宮殿に住む美しい女性たちで、神々の祝宴や儀式で踊りを披露する天界の舞踊家とされる。バンテアイ・クデイの柱に刻まれたアプサラ像も、そうした天界の舞踊の優雅さと美しさを象徴していることが伝わってくる。

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アンコールワットに描かれた可憐なアプサラのデヴァター像と比べると、こちらのアプサラ像はどこかコミカルな雰囲気が印象的だ。微笑む表情や仕草に遊び心が感じられ、緻密な彫刻の中にも柔らかさが漂っている。

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一部の柱には彫刻が施されておらず、型だけの状態で残っているものもあった。これがもともとの意図なのか、それとも修復の過程でそうなったのかは分からず。

再び中央祠堂へ

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中央祠堂(東側)

中央祠堂に太陽が当たり始めた。晴れているのはもちろん悪くないが、個人的には、このバンテアイ・クデイは曇りや雨のほうが、石や苔の色合いや森の静けさが際立ち、より深い雰囲気を楽しめそうだと思う。

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中央の祠堂は、古代インドの宇宙観における須弥山を象徴したバイヨン様式で建てられている。アンコールトムの壮大な祠堂と比べると規模は小さいが、その精緻な造形や細部の彫刻は十分に見応えがある。

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規模は小さい遺跡ですが、増改築を重ねた寺院内は迷路のような構造をしており、通路を歩くたびに異なる景色や彫刻が目に入る。小さな空間の中に歴史の積み重なりを感じながら、ひとつひとつの角を巡る楽しさがあった。

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至るところに描かれた雰囲気の良いデヴァター像を眺めながら進むと、石に刻まれた表情や装飾の細かさに自然と目が向く。静かな森の中にたたずむ遺跡の空気と、精緻な彫刻が織りなす世界は、時間を忘れて見入ってしまう魅力に満ちています。

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時間とともに表面は風化しているものの、デヴァター像の美しさや細部の精緻さは色あせず、私は思わず見入ってしまった。

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ようやくデヴァター像に朝の光が差し込み始める。光の角度で陰影が変わり、彫刻の美しさが一層際立つ。やわらかな日差しと、像の穏やかな微笑みが見事に調和し、静かな森の中に優しい時間が流れているように感じられた。

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一方で、遺跡の中ではお土産物屋が準備を始めていた。規制がないのか、普通に遺跡内部で営業しているようで、景観としては少し現実に引き戻される印象を受けた。朝の静けさの中で石の彫刻や森の雰囲気に浸っていた身には、少し惜しい光景でもあった。

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西大門
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西大門の上部にはバイヨンを彷彿とさせる菩薩の顔が描かれている。

訪れる人は少なく、静寂に包まれた寺院内をひとつひとつの角を巡りながら歩く体験は、アンコール遺跡の中でも特別な味わいがあった。滞在時間は短かったものの、規模の大きな遺跡とはまた違う、森に溶け込むような静かな美しさと、精緻な彫刻の魅力をじっくりと味わえる場所だと感じた。

滞在時間 5:50~6:50

森に還りつつある寺院、タ・プローム(Ta Prohm)

アンコール・トムの東に位置するタプローム遺跡は、まるで天空に浮かぶラピュタを思わせる、自然と遺跡が溶け合った神秘的な空間。巨大なガジュマルの根が遺跡を覆い、まるで遺跡そのものを飲み込んでしまうかのような光景は、訪れる者を圧倒する。

1186年に仏教僧院として建設されたタプロームは、のちにヒンドゥー教に改宗された。先ほど訪れたバンテアイ・クデイとは逆のパターンだ。東西1km、南北600mもの大きな壁に囲まれ、かつては5,000人の僧侶と615人の踊り子が暮らしていたという。踊り子がいたということは、僧院には女性も生活していたことになるのだろうか。

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西楼門

西楼門をくぐり、西側のテラスを抜けて中央祠堂へと進む。朝の早い時間帯だったこともあり、訪れる人はほとんどなく、静けさの中で遺跡の空気を独り占めできる贅沢な時間だ。とはいえ、タプロームはアンコールワットやアンコールトムに次ぐ人気の遺跡であり、時間が経過すれば多くの観光客で賑わうことだろう。

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タプロームで最も印象的なのは、スポアンの木が遺跡の石造りの構造に絡みつき、太い根が建物を覆う光景だ。この独特な景観は、遺跡が長い間放置され自然に戻された過程で生まれたもので、タプロームではあえて修復は最小限にとどめ、スポアンの木と遺跡の融合をそのまま残している。

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スポアンの木はガジュマル科の樹木で、幹や根が建物を包み込むように成長する。その姿は石と根が絡み合い、時間の経過を目に見える形で示しているかのようだ。さらにスポアンは非常に高く成長する木で、樹高は30メートル以上に達することもあるという。

スポアンの根は地表に露出し、建物や遺跡の石造りの構造に絡みついている。その広がりと力強さは圧倒的で、時には建物を押し崩すほどの力を持つ。

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左の壁には、デヴァター像の枠だけが残され、本体は壊されたままの箇所があった。像は意図的に削られたもので、ヒンドゥー教の強硬派による行為だと伝えられている。壁に残る彫刻の面影は、時代を超えた宗教的な争いや遺跡の歴史の深さを、静かに物語っている。

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左右の建物は、それぞれ趣が異なる。増改築を重ねる中で大きくなったため、時代ごとに異なる材質が用いられている様子がよく分かる。

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仏教色の強いデヴァター像の多くは壊されてしまっているが、その中には今も美しい姿を留めているものもある。自然に荒廃していく遺跡の中で、精緻な彫刻がかつての面影を伝えるその姿は、ひときわ印象的だった。

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風化が進むデヴァター像の中にあっても、なお豊かな表情を残していることに、思わず驚かされる。

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アンコール遺跡に多く使われているラテライトは、鉄やアルミニウムの酸化物を含むため、赤褐色を帯びている。乾燥しているときは硬いが、雨や湿気を含むと柔らかくなる性質があるという。実際に崩れかけた石材を目にすると、一度劣化が始まれば、その進行は意外と早いのではないかと感じさせられた。

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アンジェリーナ・ジョリー主演の映画『トゥームレイダー』にも登場したことで、タプロームは国際的に知られるようになったそうだ。『トゥームレイダー』は、考古学者の女性主人公ララ・クロフトが世界各地の古代遺跡を巡り、秘宝を探すアクション映画で、タプロームのジャングルに埋もれた神秘的な風景がスクリーンに映し出された。映画の舞台となった遺跡の光景は、まさにタプロームそのものと一致している。

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しかし、この独特な雰囲気を目にすると、日本人の多くはやはり『天空の城ラピュタ』を思い浮かべるのではないだろうか。石造りの遺跡に絡みつくスポアンの木や、森の中にたたずむ祠堂の姿は、まるで空に浮かぶ城のような幻想的な光景を作り出しており、日本人に人気があるのも、間違いなくラピュタの影響だろう。

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壁面に見られる「偽扉」とは、実際には開閉できないように作られた扉のことだ。単なる装飾にとどまらず、神々が自由に出入りできる象徴として設けられたと考えられているという。

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ふと視線を上げると、偽扉のリンテルには仏教的な多層構造が緻密に描き出されていました。

最上段の中央で結跏趺坐する尊格は、仏陀、あるいは智慧の象徴である般若波羅蜜多菩薩でしょうか。その足元には、合掌して教えを乞う信者や弟子たちが整然と並び、往時の深い信仰心を今に物語っています。全体を縁取るのは、仏法を守護する蛇神ナーガです。

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タプロームを象徴するといわれる場所に設置されたフォトスポットのデッキがある。確か8年前に訪れたときには、こうしたデッキはなかったはず。遺跡の魅力を写真に収める際、人工物はできれば被写体から離して設置してほしいと感じるのは、私だけだろうか。

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デッキを避けて写真を撮ると、こうした景色になってしまう。木の重みに耐えきれないと判断されたのか、遺跡の天井を支える柱が取り付けられているのが見える。

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東楼門

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タ・プロームでは、遺跡と自然がせめぎ合う風景の中に、かつて人の手によって築かれた構造だけが静かに残されていた。巨木の根に抱え込まれた石組みや、崩れかけた回廊は、人の営みの上に積み重なった長い時間そのものを見せているようだった。

その一方で、壁面に刻まれたデヴァターたちは、今もなお表情を失わずにそこに立っている。風化が進んだ石肌の中で、微かな微笑みや視線が浮かび上がり、過ぎ去った時代と現在とを静かにつないでいるように感じられた。

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自然に飲み込まれつつある寺院の中で、デヴァターは単なる装飾ではなく、かつてここに祈りが存在していたことを示す痕跡のようにも思える。人の気配はすでに消え、森の時間だけが流れる中で、その存在だけが確かに残されていることが、タ・プロームの印象をより深いものにしていた。

完成された美を誇る遺跡とは異なり、タ・プロームは変化し続ける姿そのものが記憶に残る場所だ。石と樹木、そしてデヴァターが織りなす風景は、強い余韻となって旅の中に静かに積み重なっていった。

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東南アジアあるある。
男はあまり働かない。
朝の涼しい時間に働いたらいいのにね。

滞在時間 7時~8時

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遺跡内の食堂で朝食を食べます。

角ばった未完の遺跡、タ・ケウ

滞在時間 8:46~9:45

アンコール遺跡群の中でもひときわ異彩を放つタ・ケウ。その最大の特徴は、未完成のまま残された巨大な石のピラミッド。砂岩で積み上げられた姿は、アンコール時代の建築技術の粋を集めたモニュメントのように威厳がある。

10世紀後半、ジャヤーヴァルマン5世によって建立が始まったタ・ケウは、アンコール遺跡群における初期のピラミッド型寺院のひとつとされる。しかし、建設途中で王が亡くなったため、未完成のまま放置されたと伝えられている。その荒々しい石積みの風景には、時間の止まった空間のような不思議な魅力が漂っていた。

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南側から見たタ・ケウ寺院

タ・ケウ寺院の上層部分は、今も未完成のまま残されている。下層部と比べるとデザインが明らかに異なり、建設途中で時代や意図が変わったのか、あるいは王の死によって工事が中断されたのかと想像を巡らせることになる。

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上層部へ上がることもできるが、階段は思ったより急峻で、石の段は滑りやすい。先客の姿も見えるが、最上部を目指して登っていくことにした。

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周囲の木々が高く、眺望はほどほどだったが、朝から慌ただしく遺跡を巡ってきたので、ここで30分ほど休憩した。訪れる観光客はほとんどおらず、静かな時間が流れている。

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階段の斜度がきつく、降りるときは少し怖さを感じる。タ・ケウの高さは約50メートルあり、上まで登ると高度感が増すため、足元に十分注意しながら下る必要がある。

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南楼門をくぐるとタ・ケウ寺院の本体部分

装飾がほとんどなく、無骨な姿が印象的なタ・ケウ。しかし、そのシンプルさゆえに、砂岩の質感や積み上げられた石の力強さが際立ち、目の前に広がる光景からは、アンコール時代の建築技術の高さを実感することができる。

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東側から見たタ・ケウ寺院

タ・ケウ寺院は、一言でいうと「角ばっている」と感じた。
壁も階段も、全体が直線と直角で構成されていて、他のアンコール遺跡に多い装飾的な柔らかさがほとんどない。どこまでも四角く、無骨な印象が強く残る。

砂岩はほぼ削り出しのままで、彫刻は少なく、表情を与えられる前の建築そのものが露出しているようだ。未完で終わった遺跡だと知ると、この角々しさも納得がいく。飾られる前の骨格だけが、そのまま残されているのだ。

急な階段を前にすると、装飾を楽しむというよりも、登ること自体が行為として立ち上がってくる。祈りの場というより、構造物としての強さや重さを身体で感じさせる遺跡だと感じた。

華やかなレリーフやデヴァターに惹かれてきた後に訪れると、タ・ケウは少し異質だ。しかし、その角張った姿は、アンコール建築が完成へ向かう途中にあったことを、静かに物語っているように思えた。

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おもちゃのボールを売りに来られても困るんだよね…

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トゥクトゥクに戻ると、ドライバーはシートに身を預けて眠っていた。遺跡を見て回っている間、ドライバーは基本的に待機か休憩、あるいはこうして仮眠を取っていることが多い。そう考えると、運転している時間よりも待ち時間のほうが長く、意外と楽な仕事なのかもしれない、などとぼんやり思った。

チャウ・サイ・テヴォーダ Chau Say Tevoda

チャウ・サイ・テヴォーダは、アンコール・トムの東、勝利の門から続く道の北側に位置している。道路を挟んだ向かい側にはトマノンがあり、両者は対になるように建てられている。12世紀前半、スーリヤヴァルマン2世の時代にアンコール・ワット様式で建立された比較的小規模な遺跡である。

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道路に面した北正面
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東側に空中参道がある

この遺跡でまず目を引いたのは、東側から中央祠堂へと伸びる高い空中参道だった。東門の先から、かつてシェムリアップ川が流れていた方向へ向かって参道が延びている。円柱に支えられて地面から持ち上げられたその構造は、これまで見てきたアンコールの遺跡の中でもあまり記憶にない。

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参道の石板の側面

参道の石板の側面に、これほど細かく人物像が彫り込まれている例は、これまであまり見たことがない。唐草文様の中に小さな人物像が連なり、祈りを捧げる人々や神々が表現されている。装飾は決して簡略化されることなく、細部にまで徹底されており、この寺院に注がれた意匠への強いこだわりが伝わってくる。

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ヴィシュヌ神を描いたまぐさ石(リンテル)などが良い状態で残っています。

デヴァター

この寺院で強く印象に残ったのは、壁面に施された繊細なデヴァターの彫刻だった。長い年月を経ているはずなのに、その美しさはほとんど損なわれておらず、石に刻まれた時間の厚みを感じさせる。穏やかな微笑みやしなやかなポーズ、装飾品の細部に至るまで丁寧に彫り込まれており、ひとつひとつに足を止めて見入ってしまう。どのデヴァターも表情や佇まいが微妙に異なり、静かな壁面の中で、今にも動き出しそうな気配さえ感じられた。

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チャウ・サイ・テヴォーダのデヴァターは、一体一体の装飾が個性的だと言われている。実際に目の前で見ると、その理由がよく分かる。腰に巻かれた布の細かなひだや、前に垂れ下がる大きなリボンのような長いサッシュは、平面的な彫刻というよりも、布の重なりや重さまで感じさせるほど立体的だ。石でありながら、柔らかな布地を思わせる表現に思わず見入ってしまう。

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女神の微笑み、繊細な装飾、長い年月を経た石の質感。
今にも目を開けそうなほど表情は生々しく、思わず息をのんで見入ってしまった。

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チャウ・サイ・テヴォーダは、主要な遺跡に比べると規模は控えめだ。しかし、その美しい彫刻と独特な構造には、私はすっかり魅了されてしまった。

トマノン

トマノンもチャウ・サイ・テヴォーダと同じく、12世紀前半にスーリヤヴァルマン2世によって建立されたヒンドゥー教寺院で、アンコール・ワット様式を共有している。そのため、両寺院のデヴァターには共通点が多く、優美な佇まいや繊細な装飾から、私はアンコール時代の美意識を肌で感じることができた。

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チャウ・サイ・テヴォーダが静寂の中に佇む落ち着いた美しさを湛えるのに対し、トマノンはより華やかで、女性的な美しさを感じさせる。その印象の違いには、トマノンの保存状態の良さや、修復の際に細部まで丁寧に手が入れられたことが影響しているのかもしれないと、私は考えながら歩いた。

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特に、髪飾りや首飾りなどの装飾はより緻密に彫り込まれており、デヴァターの美しさが一層際立って見える。また、微笑みや視線など、表情もより豊かに表現されており、デヴァターの個性がいっそう際立っているのを感じた。

個人的には、バンテアイ・スレイで見たデヴァターも素晴らしかったものの、より保存状態が良く、表情や装飾の豊かさが際立つトマノンのデヴァターのほうに、私は強く心を惹かれた。

アンコールワットを見終えて…

10時40分。まだ帰りの飛行機まで時間的には余裕があり、プリア・カンへ行く予定でもあったが、ここで切り上げることにした。最後に訪れた二つの寺院のデヴァター像が素晴らしく、十分に満足できたので、この印象のまま終えるのが良いと感じた。

前回プリア・カンを訪れていることもあり、また少し遺跡巡りに飽きてきそうな気配もあったため、良い余韻を残したまま終わらせることで、アンコールワットへの印象もより鮮やかに残ると思った。

今回の二度目のアンコール遺跡巡りは、デヴァター像やレリーフをじっくり見ることが目的だった。実際に一つひとつの彫刻を間近で見て回ると、細部まで丁寧に彫り込まれた表情や装飾の美しさに圧倒され、思わず息をのむ瞬間が何度もあった。目の前で石に刻まれた歴史の重みを感じられ、心から満足する時間となった。

まだまだ見きれていない場所も多く、またいつの日かアンコールワットを訪れたいと思う。

パブストリート

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夕方のフライトまではまだ時間があるので、宿泊しているタケオゲストハウスからパブストリートまで歩いて向かいました。この通りは8年前も歩いていますが、綺麗な建物が増えてぜんぜん印象が変わりました。そもそも10年前までは治安が良くないから夜間は出歩くと危険でしたからね。

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市場近くのパブストリートにはツーリスト向けのレストラン、パブ、お土産屋などが集まっている。日中はアンコールワット観光やホテルで休憩しているのか閑散している。日陰は案外心地良さそうだったので、オープンテラス席のあるレストランに入った。

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カンボジアを代表する郷土料理のひとつ、アモック(Amok)

ココナッツミルクと地元のスパイスペースト「クルーン」をベースにした、マイルドな味わいの煮込み料理です。ひと口大にカットされた鶏肉が主役で、ココナッツミルクのやわらかな香りがインディカ米によく合います。

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これは現在(2010年)のオールドマーケット前の通りの様子です。

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ちょうど8年前、2002年に同じ場所で撮った写真も残っていました。建物はほとんど建て替えられているようで、当時の面影はわずかにしか感じられない。道路もまだデコボコで、この頃は国道ですら赤土の道だったことを思い出しました。

フライトキャンセルになったが…無事帰国

レイトチェックアウトにしていたので、夕方までエアコンの効いた部屋で休憩し、17時前に空港へ送ってもらった。出発便案内ボードの前に立ち、搭乗予定の便名を探したが、どこにも見当たらない。当初の予定では、バンコクエアウェイズPG908便で18時50分にシェムリアップを発ち、20時15分にバンコクへ到着するはずだった。

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バンコクエアウェイズのチェックインカウンターで尋ねると、その便はキャンセルになったと言われた。E-mailで連絡は来ていたらしいが、パソコンを開かなければ確認できず、空港に来るまで知る由もなかった。理由は特に聞かなかったが、1時間後の別便に振り替えられており、日本への帰国便への乗り継ぎは可能だという。それを聞いて、ひとまず胸をなで下ろす。航空会社が異なる乗り継ぎは基本的に補償されないため、時間に余裕をもって予定を組んでいたのは正解だったと思う。

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そのやり取りの横で、外国人の乗客が強い口調で抗議していた。その流れに便乗して軽く不満を伝えると、軽食とドリンクのバウチャー券を渡された。思わぬおまけで、少し得した気分になる。ドリンクは生ビールを選び、軽食はヌードルをチョイス。海老が二匹も入っていて豪勢、味はあっさりとした上品だった。ごちそうさまでした。

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こじんまりとしたシェムリアップ空港の出国待合ゾーン
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とにかく、間に合ってよかった。
シェムリアップから日本への直行便はなく、どこかで乗り継ぎが必要になる。しかも今回は別航空会社・別手配だったため、もし乗り継ぎに失敗していたら代替便は用意されなかっただろう。

日本からアンコールワットを訪れる場合、一般的にはベトナム航空を利用し、ホーチミンシティー、もしくはハノイで乗り継ぐルートが多い。同一航空会社で往復を一括発券しておけば、遅延や欠航が発生した際も振替や補償の対象となるため、リスクを抑えられる点ではそのほうが無難だろう。

今回は、日本への帰国便をマイレージ特典で手配していた関係で、シェムリアップ発の区間を別手配にせざるを得なかった。結果的には無事に乗り継ぐことができたものの、欠航や遅延が起きた場合にすべて自己責任になるという緊張感は、旅の終盤になってじわじわと効いてくる。

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バンコクエアウェイズ 70人乗りの双発プロペラ機 ATR72

REP19:50→BKK21:05 PG0910

REP19:50発、BKK21:05着のバンコクエアウェイズPG0910便。振り替え客が含まれているはずだが、機内はほどほどの混雑で、もしかすると乗客数が少なく欠航になったのでは、と勘ぐりたくもなった。

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わずか1時間15分の短距離路線だが、LCCではないため無料で機内食が配られた。ただし軽食スタイルで、どこか慌ただしい印象だった。

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バンコクでは一度入国する。入国スタンプが欲しかったこともあるが、航空券が乗り継ぎ発券ではないため、すでに空港施設使用料などを支払っており、特にデメリットはない。せっかくなのでタイ料理を食べようと思ったが、スワンナプーム国際空港はまだ勝手がわからない。到着が予定より1時間遅れたこともあり、時間に余裕はなく、すぐに入国手続きを済ませた。

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到着ロビーは閑散としていたが、22時を過ぎているにもかかわらず、出国ロビーは大混雑だった。これから深夜便で帰国する人が多いのだろう。

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出国待合ゾーン内のレストランで、シンハビールとパッタイを頼み、旅の締めとした。バンコクでも一泊できたらよかったのだが。

JL728 BKK 23:55 – KIX 07:30 (05:35)

帰国便はマイレージ特典で予約した日本航空、JL728便(BKK23:55発、KIX07:30着)。スワンナプーム国際空港では、うまく機材を撮れる場所は見つからなかった。

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機内食の朝食は和食で、おかゆにそうめんという炭水化物同士の組み合わせだったが、東南アジアでは白米も普通に美味しく食べられるので、日本食が特別恋しくなることはなかった。

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07時07分、関西国際空港に到着する。窓の外には、行きに乗ったホーチミンシティ行きのベトナム航空機が駐機していた。